間質性膀胱炎(HIC)/
膀胱痛症候群(BPS)
膀胱に尿が溜まると痛い時・・・
「(ハンナ型)間質性膀胱炎」や「膀胱痛症候群」という病気も、原因でないか考える必要があります。
これらの病気は、まず、膀胱炎や膀胱結石、膀胱癌など器質的な膀胱異常が原因でないことを除外する必要があります。
具体的には、泌尿器科にて
☑尿沈渣
☑尿細胞診(膀胱癌の除外目的)
☑尿培養(膀胱炎の検索)
☑膀胱エコー
☑排尿日誌
などを行うことで、ある程度は医師が推測することが出来ます。
原因疾患がある場合は、その疾患の治療を第一優先で行います。
これらの検査で異常がなかった時、また細菌性膀胱炎の治療として抗生剤を使用して、症状の改善が得られない時に間質性膀胱炎の存在を疑います。
(ハンナ型)間質性膀胱炎の最大の特徴は、「畜尿時の刺すような激痛」で「排尿により多少改善する」です。
逆に、膀胱痛症候群の特徴は下腹部の鈍痛で、刺すような激痛にはなりません。こちらは自分の体調が悪い時に相関して症状が増悪するという特徴があげられます。
(ハンナ型)間質性膀胱炎とは
具体的にみていきましょう。
最近のゲノム解析で「(ハンナ型)間質性膀胱炎」は、特定のある種類の蛋白質が増殖しており、それが原因で膀胱壁の炎症性疾患がおこっていることが分かっています。原因として何らかの尿路感染を契機にゲノム遺伝子の変異が起こります。その病的遺伝子がモノクローナルに増殖して、膀胱全体に膀胱壁にリンパ球浸潤や形質細胞浸潤といった炎症を波及させます。特に炎症の強い場所では膀胱壁の上皮細胞が剥離し、膀胱上皮の基底層が破壊されるために刺激物が神経のある粘膜下組織まで到達し、畜尿時に刺すような激しい膀胱痛が出現します。また膀胱上皮細胞が剥離するのが極端な部分で粘膜下組織の血管の色が透けて「ハンナ病変」が出現することが分かっています。炎症のある部分は周囲の血管新生を促しながらも、組織は徐々に線維化を繰り返して、膀胱は長期的に数十年単位でみると線維化して萎縮する傾向になります。
(ハンナ型)間質性膀胱炎の治療は
①ジムソ(DMSO)膀胱注入療法
②水圧拡張術
があります。
①ジムソ(DMSO)膀胱注入療法
膀胱内に抗炎症作用のあるジムソという薬液をいれる治療になります。1回15分程度ジムソをいれる行為を2週間ごとに6回連続します。この治療は大変よく効く治療で、多くの間質性膀胱炎で苦しんでいる方の痛みを緩和させます。ジムソはアナフィラキシー等のアレルギーを起こすことのない安全な薬であり、クリニックでも十分にしっかりとして治療提供できる薬剤です。当院でも1例、ジムソの著効している患者さんがいらっしゃいます。
ジムソは即時の痛みの緩和にはとても有効ですが、欠点は中長期的に、再度炎症が戻ってきた際は再度ジムソの投与が必要となります。ただし、何回でも複数回の投与を行うことができ、ジムソを繰り返すことでのデメリットはありません。膀胱痛の痛みがない際は、ジムソの投与は不要です。
②水圧拡張術
次に水圧拡張術です。これは、脊椎麻酔下に、膀胱内を膀胱鏡で確認し、ハンナ病変のある部分を電気的に薄く切除したのちに焼灼し、膀胱全体を一時的に水を入れることで拡張し、症状の緩和を狙います。前述のようにハンナ病変部分の粘膜透過性の亢進が痛みの原因ですでの、痛みのコントロールには病変部の焼灼が向いていると言えます。
薬剤の治療に関しては、侵害受容性疼痛であると考えられるため、アセトアミノフェン、NSAIDs、弱オピオイド等の併用がいいであろうとされています。
また海外では自己免疫異常であると考えて、ステロイド内服や免疫抑制剤シクロスポリンなどといった免疫異常を治療する手法で治療が行われることもあり、効果を発揮しています。日本では現状はこれらの治療は保険適応にはなっておりません。
「膀胱痛症候群」とは
次に膀胱痛症候群を見ていきましょう。
これは、過敏性腸症候群/線維筋痛症/慢性疲労症候群/抑うつ状態/片頭痛を持っている人に発症しやすいことが統計学的に分析されており、一種の身体表現性の症状であると考えられています。膀胱壁の炎症やモノクローナル抗体の産生もおこってらず、症状も鈍痛と鈍い物が多く、膀胱上皮の剥離も起こっておらず、比較的若年からも症状の発症が認められます。
過去のトラウマやストレスで大脳皮質の神経感受性が亢進しており、痛みの知覚情報の処理が正しくできないことによる痛覚変調性疼痛であることが分かっています。
膀胱痛症候群の治療は、
①薬物治療(痛みのコントロールと精神ケア)
②認知行動療法
③理学療法(ぺリネスタ等)
などがあげられます。
①薬物治療については、主に抗うつ剤のアミトリプチン、H1ブロッカーのヒドロキシジンとH2ブロッカーのシメチジンの併用、抗アレルギー薬のスプラタスト、激痛例にはデュロキセチンなどが効果があると言われております。
②認知行動療法に関しては、膀胱痛症状は基本的には体調が悪くなると症状がでてくるような体質の一つと理解して、うまく症状と付き合うことができるようになると、圧倒的に症状で困ることが減ります。原因不明の未知の痛み、ではなく、正体の分かっている診断のついているものであると分かるだけで安心し、疼痛コントロールがよくなります。
③理学療法に関しては、当院ではぺリネスタ等の干渉低周波の治療も効果があるように考えています。
いままではこれらの疾患が混在しており、大変病態の理解に苦しんできましたが、現代の遺伝子解析等で、これらの病態の研究が進み、治療方法もどんどん進化してきています。
当院では、「(ハンナ型)間質性膀胱炎」や「膀胱痛症候群」の診断や治療(ジムソ/治療薬/ぺリネスタ等)を行っております。膀胱痛のコントロールが悪い際や、水圧拡張術、組織診断が必要な際は適宜専門の病院へご紹介するという病診連携を取って、治療を行っております。
膀胱痛で悩んでいる方の、悩みの解決にお役に立てればと考えております。
お読みいただき、どうもありがとうございました。
この記事は東京大学泌尿器外科講師の秋山佳之先生の講演情報を元に記載しています。
秋山先生、どうもありがとうございました。